第56話 脳トレブーム
40過ぎると人の名前が出なくなり始め、50を過ぎると今自分がやろうとしていた事を忘れる。
自分が誰だか分からなくなる迄にはまだ間があるとはいえ、歳はとりたくないものだとつくづく思うものだ。
人間、不思議なもので、そうなると、一方ではショックを受けながらも、片方では心準備も含めてその時の為に準備を始めるものである。
高齢化社会が成熟段階に入り、幸か不幸か、普段の生活でも、認知症の人を多く見かけるようになってくると、若い人も含めて、少しでも認知症を食い止めたいと真剣になりだす。
少し以前までは、脳は重要な臓器として、その健康を守ることが大切だとされてきた。
血流を良くし、酸化を抑えて、栄養を供給する。頭を良くすることイコール運動して『健脳食』を積極的に摂ることだった。
しかし、ここにきて『脳トレ』というのが流行り出してきた。
筋トレのように脳も鍛えれば、機能が高まるということらしい。
筋トレはやり過ぎるとマッチョマンになるが、脳トレはやり過ぎても外見上は問題ないだろう。
確かに、脳は鍛え甲斐があるかもしれない。
140億個もあると言われる脳細胞も、二十歳を過ぎると一日に5~10万個減っていくそうだが、使うことによって、新しい回路がどんどんできるとのこと。
このまま行くと、我が国には、外見は普通の日本人だが、頭脳はアインシュタインのような老人がいっぱい現れてくるかもしれない。
私は子供の頃からIQテストが嫌いだった。自分の頭の悪いのがバレルからである。
同じ理由で、子供にもIQテストを受けさせない。
それが、最近のテレビ番組を見ても脳トレグッズを見ても、世の中には自分の脳力を知りたがっている人が多い(とこれはあくまで想像だが)のに驚かされる。
ただ、単純な計算や漢字の読み書き等で、本当に脳力がアップするのか疑問だが、それは専門家の研究に任せることにして、私個人は、年齢がいくに従って、本来は複雑系で深みのある思考やそこから導き出される判断力は高まるはずであると考える。
若い時のような直線的ですばやい計算力や思考力は確かに劣ってくるだろうが、違う面の脳力は年とともに高まってもおかしくない。
これはおそらくであるが、中高齢者向けの何よりもの脳トレは、バリエーションに富んで、答えが一通りでないことに熱中することだ。
社会性とやりがいと楽しみの3つの要素が重なると、言うこと無い。長続きもする。
皆で楽しむ趣味の会やボランティアは、まさしくこれに当たる。また、音楽や芸術活動も人生の幅を広げながら脳力アップと一石二鳥である。
まあ、年を取らないようにしたい、若返りたい、も結構だが、歳を重ねる事の値打ちを噛み締め、上手な熟し方を思索するのも実質的脳力トレーニングになるかもしれない。
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